失火責任法│賃貸入居者の賠償責任と保険の関係

できれば起きてほしくないことが火災事故。

総務省消防庁の資料によれば、平成28年度の建物火災の件数は20,991件と発表されています。

これは約一日当たり58件となり、25分ごとに一件の建物火災が発生していることになります。

もし火災を起こした場合や隣からのもらい火等で被害を受けた場合、どのような責任が発生するのでしょうか。また、失火責任法とはどういうことなのでしょうか。

賃貸入居者が火災によって被害を与えた場合や被害を受けた場合の賠償責任と保険の関係を、失火責任法を踏まえ考えてみます。

失火責任法とは

失火の責任に関する法律(明治32年の法律)で、失火とは過失から火事を起こすことを意味し、簡単に説明すると、火災を起こした本人に故意または重大な過失がない限り、他人に与えた損害に対し賠償責任を問わないとするものです。

これは、日本は木造住宅が多いことから火災が起きてしまえば被害が広範囲になる可能性があるため、火元となった人の救済措置と考えるものです。

では、故意または重大な過失とはどのようなことでしょう。

故意とは

意図的なことで、火災でいえば、火災をわざと起こす、また起きることがわかっていながらその行為を行うこと。

他人の権利や利益を侵害することを認識していながら行う行為。

このような行為は犯罪であり、当然ながら損害賠償責任が発生し刑事責任が問われます。

重大な過失とは

そもそも過失とは不注意によって起こした事故のことを言い、その程度によって重過失と軽過失に分けて考えられます。

ここでいう重大な過失とは、人が当然行うべき注意を著しく欠く場合のことで火災が起こる可能性があるにもかかわらず注意を怠って漫然と見逃し・予見・防止しなかったことを言います。

例えば

・寝タバコにより起こした火災

・てんぷら油の入った鍋をコンロに火をつけたまま長時間その場を離れたことによって起こした火災

・電気ストーブを付けたまま就寝し布団や毛布に引火して起こした火災                 等

このような事故を未然に防止できることを予見することができるにもかかわらずそのままにした結果火災を起こし、周囲に損害を与えてしまうようなことです。

したがって失火責任法とは、このような故意や重大な過失がない限り他人に対する損害賠償責任は問わないとされています。

ただし、このような判定はトラブルになった場合に裁判によって決められるものであり、トラブルにならないための知識として基本的なことを理解してください。

そこで次に、賃貸入居者が火災を起こした場合やもらい火等による被害を受けた場合の責任問題を整理します。

入居者本人が火災を起こした場合の責任

自室だけの火災(隣室へ損害を与えていない場合)

この場合、貸主(大家)に対する損害賠償責任が発生します。

先ほど失火責任法の説明で、故意や重大な過失がない限り他人に対する責任は問われないと申し上げましたが、賃貸の場合は話が違ってきます。

通常お部屋を借りる場合、賃貸借契約を交わします。

この契約には原状回復に関する内容があり、お部屋を借りる場合には原状回復義務があります。(民法によるルール)

これを簡単に説明すると、お部屋を借りている人は退去する時に元に戻して返さなくてはいけないということです。

そのため、失火責任法による過失の有無よりも大家さんに対する損害賠償責任が発生することになるのです。

自分の持ち家で火災を起こし、他人に被害を与えていなければ自分の家が焼けてしまったことの自己責任ですが、賃貸の場合は大家さんに対する賠償責任があるということを理解しておく必要があります。

自室で起こした火災で隣の部屋や上層階に被害を与えた場合

この場合失火責任法では重大な過失がない限り他人に対する賠償責任は問われません。

しかし考えてみてください。

もし本当に火災を起こして他人に被害を与えた場合、失火責任法では私には賠償責任はありませんと言えるのでしょうか?

また重大な過失などの判断は自分で勝手にできるものではありません。トラブルになれば裁判となり判決が下ります。

このようなことから他人に対する責任も考えておかなければいけません。

共同住宅で生活している以上、隣人への配慮も必要ということです。

自分の部屋が他人の部屋からのもらい火等によって被害を受けた場合の責任

他人の部屋からのもらい火等で自分の部屋に被害を受けた場合でも火元となった人に故意または重大な過失がない限り賠償責任は問われないとするものが失火責任法です。

したがって自分の部屋の修理は自分で行わなくてはいけなくなります。

自分には責任がないから相手に弁償してもらうと言って裁判を行っても相手に故意や重大な過失が認められなければ結局自分で修理をしなくてはいけません。

また仮に修理をしないで生活できたとしても最終的にお部屋を退去する時には原状回復義務がお部屋を借りた人にあるため大家さんに対する賠償責任が発生することになるわけです。

このようなことを考えてみれば、保険に加入しておく大切さも理解できるのではないでしょうか。

そこでこのような場合の保険の役割を整理します。

賠償責任と保険の関係

賃貸入居者の方が必ず加入している保険は基本的には家財保険です。

そもそも火災保険は建物と家財に分けて設定され、建物は物件所有者の大家さんが加入するもので、入居者は家財保険に加入することになります。

この家財保険の補償の中に、賃貸物件用の保険として借家人賠償責任保険や個人賠償責任保険といった内容があるわけです。

各保険会社によりそれぞれの違いがあるため、確認が必要です。(保険会社一覧:参照)

この借家人賠償責任保険というものが大家さんに対して損害賠償責任が発生した時に補償される内容です。

また個人賠償責任保険は、他人に対して賠償責任が発生した時のものとなります。

これらを整理すると、

1.自分の失火による自室の修理責任

原状回復義務があるため大家さんに対する賠償責任となり借家人賠償責任保険で対応。

2.隣室などへの修理責任

他人に対する賠償責任と考え、個人賠償責任保険で対応。

3.隣室からのもらい火等による自室の修理責任(失火者に賠償責任がない場合)

お部屋を借りている人に原状回復義務があるため、大家さんに対する賠償責任となり、借家人賠償責任保険で対応。

このように借家人賠償責任保険と個人賠償責任保険には違いがあります。

その他の注意点

失火責任法ではガス爆発は適用されません。

また、地震にともなった火災は地震保険での対応になることも注意が必要です。

火災等の事故は起きないことにこしたことはありません。

しかし起きてしまえばその賠償責任は計り知れません。

まずはこのようなことを基本的なことと理解して現在ご加入の保険を今一度確認しておくことをお勧めします。

賃貸入居者が加入している保険は自分の家財を守るためのものだけではないことをしっかりと認識しておきましょう。