賃貸借契約における賃借人の権利と義務を知る

通常一般的にお部屋を借りる場合、賃貸借契約を交わします。

賃貸借契約を交わすということは、お部屋を借りる側の賃借人としては家賃の支払いを約束します。

また、お部屋を貸す側の貸主はその部屋を使用収益させることを約束することになります。

ここに、借りる側の賃借人は家賃を支払う義務とお部屋を使用収益する権利が発生し、貸す側の貸主には家賃を得る権利と部屋を使用収益させる義務が発生するわけです。

このような権利と義務の基本的なことを知ることが、お部屋を借りる賃借人としてはとても大切なことです。

なぜならば、この賃貸借契約に関するトラブルが非常に多いことが現実なのです。

日本の法律

日本にはいくつもの法律があり、代表的なものが憲法・刑法・民法・商法・刑事訴訟法・民事訴訟法で、法律の六法と呼ばれています。

これらの法律は社会の秩序を保つために規範となるルールを定めたものです。

賃貸借契約は民法を基本とし、国や地方公共団体が国民に対し命令・強制する公権力を行使しない私人間同士の関係を規定したもので、私法上の権利や義務について一定のルールを定めています。

したがって、賃貸入居者の権利と義務、また貸している側の大家さんの権利と義務とは何かを理解しておくことが必要です。

では、民法とはどういうことを原則としているのでしょう。

民法の原則とは

民法の基本原則とは、権利能力平等の原則・所有権絶対の原則・私的自治の原則・契約自由の原則・過失責任の原則を含めたものを基本原則として解釈されています。

1.権利能力の原則とは

性別・職業・階級などにかかわらず、すべての人は等しく権利能力を有するもの。

2.所有権絶対の原則とは

所有権は何人に対しても主張できる権利であるもの。

3.私的自治の原則とは

私法上の法律関係は、個人の自由な意思に基づいて形成できるもの。

4.契約自由の原則とは

契約の締結・内容・方法・相手方の選択は個人の自由な意思によって決定できるもの。

5.過失責任の原則とは

故意・過失がなければ責任を問わないとするもの。

 

内容の定義についてはこれに限られるものではありませんが、このようなことが基本原則の考えです。

この民法を基に、賃借人であるお部屋を借りている人の権利と義務を整理してみます。

お部屋を借りる側・賃借人の権利

お部屋を借りている側には、使用収益権・修繕請求権・費用償還請求権・賃料減額請求権というものが主だった権利となります。

1.使用収益権

これは、お部屋を借りる時の契約によって定めた用法に従って使用し、そこから利益を得てもよいという権利です。

簡単に説明すると、お部屋を借りる時の使用用途が居住用として借りた場合でも、その部屋を使用して収益を得てもよいということです。

例えば、インターネットを活用して利益を得る等、内職や副業的に使用してもよいということです。

ただし、事務所用として借りていないため、必要以上の設備の設置や人の出入りが頻繁にある場合等は用法違反を指摘されることに注意が必要です。

2.修繕請求権

例えば、雨漏りがして借りている部屋に支障が発生した場合、借りている側は貸している側の大家さんに対して修理を依頼することができる権利のことです。

貸している側の大家さんとしても使用収益させる義務を負っていますので、必要な修理を行う義務があり、これに対応しなくてはなりません。

大家さん側は、賃料債権という家賃を受け取る権利があるため、それに対し上記のような義務を果たさなければいけないのです。

このような場合、大家さんが直接管理している場合と管理会社が大家さんからの依頼を受けて管理している場合があるため、連絡先の確認が必要です。

3.費用償還請求権

日常生活に支障をきたすような緊急事態で、大家さんや管理会社に連絡がつかなかった場合、借りている側が修理業者を手配しその修理費用を直接支払った場合にその費用を返還してもらう権利のことです。

例えば、設備の老朽化により水道管から水漏れが発生し、大家さんや管理会社に連絡がつかなかった場合等です。

ただしこの請求権は、賃貸借契約終了後、お部屋を返還してから一年以内という期間があることも覚えておいてください。

4.賃料減額請求権

この権利は、家賃交渉ということになります。

これを簡単に説明すると、例えば永年家賃7万円を支払っていたとします。

ところが隣の部屋が同じ間取りで設備も変わらないのに家賃6万円で募集していたため、家賃を下げてほしいと請求する権利のことです。

ただ民法では、契約自由の原則に基づいて契約条件等は当事者間の合意で自由に定められるものであるため、同一のアパートやマンションでも家賃の格差が出ることがあります。

この請求権は、契約当時の賃料が現在の事情と比べて不合理・不公平であれば減額請求は認められると考えますが、大家さんとの交渉事となり、必ずしも認められるとは限りません。

したがって、不合理・不公平であることはもちろん、なおかつ賃料を下げてほしい現実的な事情を交渉材料として考えておくことです。

以上のことが主だったお部屋を借りる側の権利となります。

では、お部屋を借りる側の義務とはどういうものでしょう。

お部屋を借りる側・賃借人の義務

賃借人の義務は、賃料を支払う義務・善良な管理者の注意義務(善管注意義務)・用法に従う義務(用法遵守義務)・通知義務・修繕協力義務・目的物の保管義務・目的物の返還義務・原状回復義務等となります。

これらに限られたものではありませんがおおまかにこのようなことです。

ここで特に注意が必要な義務が、善管注意義務用法遵守義務原状回復義務となります。

基本的なことですが、お部屋を借りる時の賃貸借契約書は、契約期間に定めがあります。

契約終了時や退去する時には、借りたお部屋を返さなければいけません。

その時に義務違反があれば大家さんに対する損害賠償責任が発生することになるのです。

民法の基本原則には過失責任の原則があり、故意・過失がなければ責任は問わないとされています。

したがって、故意・過失がなくきれいにお部屋を使用していれば、賠償責任は発生しません。

ところが契約書には、修理に関する項目や原状回復に関する項目があり、また特約として各種条件が記載されています。

この内容をしっかり理解しておくことが必要です。

先に申し上げた賃借人の権利を、契約書によって排除している場合があるのです。

権利や義務は、借りる側・貸す側双方にあるわけですが、お部屋を借りる側は法律や契約に関することは詳しくない方がほとんどです。

そのため、民法の特別法となる借地借家法や消費者契約法という法律で借りている側が不利にならないよう規定され、貸している側が有利となる一方的な内容は無効としているのです。

とはいえ、お部屋を借りている側は人のものを借りているわけですから、大切に取り扱い、契約を守ることは当たり前のことで義務は義務として果たさなくてはいけません。

契約を交わす以上、言った言っていない、聞いた聞いていないといったトラブルにならないようにしっかりと認識しておきましょう。

信義・誠実とは

お部屋を借りる側・貸す側どちらにも権利や義務があります。

賃貸借契約はトラブルを防ぐ意味でとても重要なものです。

お部屋を借りる側が弱い立場で、貸す側が強い立場ではありません。

前述の通り民法の基本原則には、権利能力平等・契約の自由・過失責任の原則などがあるといったことを申し上げました。

重要なことは、信義・誠実ということで「権利の行使及び履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」と民法でわざわざ条文に記載されています。

このことを本当の意味で理解したいものです。

しかしながら利益至上主義の大家さんや管理会社がまだ多いことも現実です。

権利を主張したり義務を果たす場合、社会のルールに従い人を裏切らない行為をすることが、借りる側や貸す側、また管理する管理会社にも一番大切なことではないでしょうか。

まずは基本的なこととして理解しておきましょう。